今更聞けない!介護業界の「ICT」化とは?
「介護のICT化が進んでいる」と聞きますが、「そもそもICTとは何か?」「何がメリットなのか?」イマイチよく分かりませんよね。
ICTとは、インターネットをはじめとした通信技術を用いて円滑なコミュニケーションをはかろうとする動きのことです。この記事では、介護のICT化によるメリットや現状をお伝えします。
もくじ
ICTとはなにか?
ICTとは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の略です。インターネットをはじめとした通信技術を用いて円滑なコミュニケーションをはかろうとするサービスや技術のことです。
ITは通信技術の機能や機器自体を意味することが多いですが、ICTはそれらを用いた「コミュニケーション面」に重点が置かれています。日本ではITという言葉の方が浸透していますが、国際的に見るとICTの方が浸透しています。
省庁でも使い分けており、経済産業省ではIT、総務省ではICTと表記されることが多いです。
ICTが使われている現場は通信産業だけではなく、教育現場での生徒情報管理や遠隔授業、防災関係でのアラート機能など様々な場面で活用されています。介護現場も例外ではなく、高齢者の見守りや体調管理情報など様々な場面で使われるようになってきました。
介護業界の「ICT」化が進む理由は?
介護業界は人手不足が深刻なため、その問題を解決するためにICT化が進められています。また、近い領域である医療業界ではすでにICT化が進んでいますので、それに合わせる意味もあります。
人材不足が深刻だから
介護現場は慢性的な人材不足です。2018年現在は3.3人に一人が高齢者ですが、40年後には2.5人に一人が高齢者(65歳以上)になります。15〜64歳の人口は減る一方で、介護現場では少子高齢化の影響をダイレクトに受けています。
介護分野での有効求人倍率は他の分野よりも高く、常に職員を募集している状態です。
そもそも介護現場は仕事量のわりに賃金が高くないこともあり、離職率も高く、中堅が育たない現状があります。少子高齢化が進行すると今よりも人材不足になるのは目に見えていますね。
ICT技術を用いて業務を効率化し、人材不足に対抗する必要があるのです。
記録を共有する必要があるから
電子カルテや電子処方箋を導入している医療現場は増えてきました。一般的に、介護現場よりも医療現場の方がICT化が進んでいます。
介護現場では、利用者さんの体調やスケジュールを職員間で共有する必要があります。しかし、24時間体制のため1日の中でも入れ替わりが激しく、離職による職員の入れ替わりも多いのが現状なのです。そもそも情報共有をしづらい職場環境にあります。
手書きの情報は事務所内でしか確認することができないため、大規模な施設や訪問介護の場合は特に共有に手間がかかります。
ICT化によってどこでも情報が共有できるようになると、無駄な時間が減り、効率化が進みます。
2019年に医療・介護の法改正があるから
2019年に医療現場・介護現場で同時に法改正が行われます。法改正により、医療現場から介護現場に移ってくる利用者が増えますので、介護施設利用者は現在よりも増えることが予想されています。ただでさえ人材不足ですから、効率化しなければ手が回りません。
また、医療現場はすでにICT化が進んでいます。介護現場も医療現場に合わせなければ、意思疎通や情報共有が難しいですよね。
介護現場でも今のうちにICT化を進め、法改正に備える必要があります。
知っていますか?介護記録にはこれだけのコストがかかっています!
この図は、介護記録を全て手書きで記録したとき、年間でどのくらいのコストがかかっているかという図です。調べによると、年間18000時間も費やしていることがわかりました。
1事業所あたり、定員150人の施設で、自給1082円として換算してみると・・。
年間約2000万円!
記録にかかるコストが年間約2000万円かかっています。
記録物を全て手書きにしたコストが、緑の棒グラフです。
この手書きの記録を、タブレットなどのICT化をすすめることによって、記録時間を2割削減したとすると、年間コストが1600万円で、約400万のコスト削減!
経営的には、約400万の収益になります。
ICT化によるメリット
事務仕事に割く労力が減り、本来の仕事であるケアに集中できることが期待されています。
事務作業・管理業務が効率化される
ICT化によってケア以外の業務の効率化が期待できます。
近い領域である医療現場では電子カルテや電子処方箋、電子紹介状等を使っているところが多いです。入院から退院までの計画を電子化し、患者や家族と共有することも可能。病床500以上の大規模病院での電子化率は80%にのぼっています。
介護現場では「介護記録」をスタッフが記入します。
内容は、その日の状態(食事や服薬、口腔ケア、排泄、入浴、通院、起床等)や様子(〜さんとレクリエーションを楽しんだ、折り紙を折った等)が共有されています。
現在はまだまだ手書きが多く、介護記録の記入が残業になることも。ICT化が導入されると、音声で入力できたり、フォーマットを用意することで記入時間が削減されたりと多くのメリットがあります。
利用者のケアに時間を割くことができる
介護のメインは、利用者さんとコミュニケーションを取りながらケアを行うこと。しかし、介護記録などの事務作業に時間を取られるのが現状です。記録はケアの後に書きますので、「メインの業務ではないのに時間が取られる」ということで負担になります。
記録をはじめとした事務作業を効率化し、短時間で終わらせることで、業務のメインであるケアに時間を割けるのは重要なことですね。
人材不足をカバーできる
医療現場では、話したことがそのままカルテに記入されたり、治療をAIが行ったり、人材不足をある程度カバーできるようになってきました。
今までは「AIにコミュニケーションは難しい」と言われてきましたが、コミュニケーションに特化したロボットも開発されています。
ICTとAIを組み合わせることで人と機械の棲み分けができ、よりよい介護を提供することができるのです。
介護現場でのICT活用方法
2012年に中部経済連合会で産業委員会ヘルスケア部会が発足されてから、日本の介護業界でのロボット・ICT化は進められてきました。高齢者コミュニティの調査・研究・講演会等を通して、ヘルスケア振興の動きが進んでいます。しかし、政府の期待ほど介護現場のロボット・ICT化は進んでいないのが現状です。
数字で見ると介護ロボットの普及が進んでいることが分かります。2015年度の介護ロボット市場規模は10 億 7,600 万円でしたが、2020 年度 は970 億円と大幅な増加が予測されています。企業での新製品の開発、新規参入が今後の発展のポイントです。
先ほどもご説明した通り、介護記録の共有などの事務作業面で効率が上がります。
利用者さんと直接関わりがある面で言えば、移乗介助や移動支援、排泄支援、見守りサービス等でロボットの活躍が期待されています。排泄支援は利用者さんも恥ずかしい思いをする部分なので、ロボットが担う意義も大きいです。
介護現場でのICT活用の課題と対策
介護現場では、2012年からICT振興のために様々な活動が行われてきました。しかし、まだまだ普及していないのが現状です。課題としては、下記の3点が挙げられます。
・実用性
・安全性
・倫理面
利用者さんに直接関わるので、安全性が保証された製品でなければ実用は不可能ですよね。また、「介護をロボットがやるのはどうなの?」「ロボットに世話されるのは嫌だ」と感じる方がいるのも事実。倫理面での配慮も必要になってきます。
製品を作る側(企業)、使う側(介護関係者)、それらをつなぐ国や行政の3者がそれぞれICT・ロボット化を進める準備をしなければいけません。
企業側では製品を実用化するための作業、介護する側では機器を使った作業のマニュアル化、国や行政では機器の便利さや安全性を証明して普及を促す活動がされています。
介護のICT化によるこれからの介護現場
ICT の導入が進む施設がある一方で、いまだにインターネット環境が整っていない施設も多く、格差が大きいのが現状です。
介護は施設や介護を受ける側だけの問題ではなく、地域全体の問題。行政と連携しながら進めていく必要があります。
介護ロボットについては、利用者を介助するロボットだけでなく、スタッフを補助するロボットやコミュニケーション専用のロボットなど様々です。企業の協力あってこそ成り立ちますので、企業、介護側、行政の協働が大切です。
まとめ
介護業界のロボット・ICT化は進んでいますが、まだまだ普及していないのが現状です。製品を提供する企業側、使う介護側、それらをつなぐ国や政府それぞれの立場で協働することが大切です。